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2010.07.09

ビスホスホネートと実地医家

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ビスホスホネート(以下BP)を骨粗鬆症の治療薬として私が初めて処方したのは平成9年のことである。エチドロン酸(Ethan-1-Hydroxy-1,1- DiphosPhonate:商品名ダイドロネル)として骨粗鬆症のみならず骨パジェット病にも適応があり腎不全透析患者の異所性石灰化症や外傷後の異所性骨化症にも安全に投与でき、しかも効果が確実にあった。休薬期間3ヶ月という開業医には不向きな投与方法であるものの、私にとっては週1製剤が多い現在でも骨粗鬆症患者への選択薬剤の一つとなっている。発売当時エチドロン酸の副作用といえば軽度の胃もたれが散見されたが、逆流性食道炎などの経験はなかった。当然ビスホスホネート関連顎骨壊死(Bisphosphonate Related OsteoNecrosis of the Jaw 以下BRONJ)が話題になることも一切なかった。
これまでの治療薬に比較してBPは骨量増加作用があり、骨粗鬆症ガイドラインでは今や第1選択薬として位置付けられている。またBPの処方により寝たきりの原因である大腿骨頚部骨折の発症が減少している事実があり、脆弱性骨折の予防効果もある。さらに癌の支持療法薬として積極的な使用が推奨される薬剤で、今後もBPの投与は増えると思われる。
現在BRONJが注目されてきたのは高齢化社会になるわが国でBP処方の患者数が増え、整形外科医の処方のみならず内科医の処方数増加が関与している。起床後空腹時にコップ1杯の水とともに服用し30分は臥位を取れないという服用方法のわずらわしさも、連日内服から1週間に1度という間歇投与剤の開発により内服頻度の軽減が服薬アドヒアランスを高めることになった。当院のBP処方例は250名いる。BRONJと思われる症例は1例であった。BP剤の添付文書の通知に「投与経路によらず」という改訂が加わったものの注射剤に比べ内服薬に関してはBRONJ発症の頻度は決して多くはないというのが私の率直な感想だ。その1例については脊椎に多発性骨脆弱骨折を繰り返しているが、抜歯前のBP投与期間は1年未満であった。口腔内には数本の歯牙は申し訳程度に残っているものの酷い歯周病を患った上に歯垢の付いた部分入れ歯をつけ、さらに衛生状態を悪化させていた。口腔衛生の管理をしても患者自身が実行せず、門外漢の私からみてもBRONJ以前に歯周病自体が難治と思われた症例である。担当の歯科医から抜歯後3ヶ月経過したのでBP内服を再開する許可を頂いたが、現在も歯槽骨が露出しており私の判断で休薬中である。BPが原因かどうかは明らかではないが、口腔内衛生の不良がBRONJ、特に骨壊死から化膿性骨髄炎合併となる明確なリスクであることを体験した症例である。
BP内服症例の口腔内不衛生状態はこれまでの虫歯治療のパラダイムを変えるほどの事態になっているのかもしれない。当然のことながら口腔内組織は常在菌を有しており、それでも従来は侵襲的歯科処置に耐えうるものであったが、BP内服者の歯周病合併となれば、もはや感染症という概念に立ち骨髄への感染予防のために口腔衛生を徹底的に管理した上で粘膜、歯槽骨への愛護的な侵襲処置が必要とされる。歯周病菌が人工関節手術の感染リスクという報告もあり、この意識は何も歯科医療の問題のみではなく歯科、医科ともに日々の診療に喚起すべき共通の課題になってきたのではないかと思われる。
BPは骨との強い親和性をもち骨に特異的に蓄積される薬剤である。処方の際はBPの投与期間の把握、骨密度の評価をYAM%値で適切に行い、改善例にしても無効例にしても漫然とした長期投与は厳に慎むべきである。少数の報告ではあるが大腿骨骨幹部骨折の発症もBRONJと同様に漫然とした長期投与への警鐘であると考えている。
最後に、日本骨代謝学会のBRONJ統一的見解(ポジションペーパ)はわずか7ページの冊子でありBPを処方する医師は一読することをお勧めする。また日本口腔外科学会のBRONJの広報冊子のPDFファイル(http://www.jsoms.or.jp/pdf2/bone_bisphos.pdf#search='ビスホスホネート関連顎骨壊死' もインターネットからダウンロードし閲覧可能である。糖尿病の既往やステロイド剤内服などの問診については当然のことであるが、口腔内視診を行い齲歯や歯周病の有無、総入れ歯か否かなど、BP投与前と投与中の診察も追加するようになった。やっかいな話だが整形外科医といえどもBPを処方する実地医家として、これも必要な仕事だと考えている今日このごろである。

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